天海紅葉が文章をあれこれ書き散らすブログ。ジャンルは雑食。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消せます。

摂氏800度(13)

6月24日――私はその日を忘れはしないだろう。

結果として、黒ノはその通告を受け入れなかった。
完全に白崎・司馬サイドと対決することを選び、女史たちは公然と批判される立場に立った。
とは言え第2期参加者にとってみれば全く知らない人たちとの話である。
「何か動きがあったらちゃんと告知するから参加者同士であれこれ言わないように(要約)」という管理側からの緘口令もあって、第1期からの参加者も舞台裏でそんな話をするわけではなかった。

――が、先に言った通り、私たちは白崎たちと同じSNSに参加していた。
女史たちをはじめ黒ノの参加メンバーの数人も、白崎の招待でそこにいたのだ。

「あんなのと繋がりたくない、ページを見に来られるのも気持ち悪い」

そう言って白崎と司馬は早々に女史たちをアクセス拒否欄に登録した。
そして私や、管理サイドに付くことを決めた「元・黒ノ参加者」たちにもそれを勧めた。
女史たちの様子を見れなくなるのは情報収集の点で良くないかと思ったが、記事にコメントを残されたりして女史たちとの繋がりが実はこっそりあるんじゃないのか、と疑われても面倒なので言われた通りに私もアクセス拒否しておいた。
どうやら他の『味方』たちもそうしているようだった。

そして、一部の元参加者たちは、そこで情報交換や「証拠」の会話記録のやり取りをしていた。


その日の夜、K女史から携帯にメールが入った。
そういえばこっちはまだ着信拒否に登録してなかったな、と思いながら開いてみた。

『いわみん、黒ノのことあの二人に言ってないよね?』

きたか、と思いながらも私は妙に冷静にウソを吐いた。

『言ってないよ。なんで?』
『それならよかった……いや、疑ってごめんね?
 今日SNS行ったらアクセス拒否されてたし、いわみんはあの二人と特に仲良いから
 ひょっとしてあの二人の味方について、私を切るんじゃないかと思って心配で……』

鋭いな、と思わずひとりごちた。

『あー……誤解させたの私だし、謝らなくていいよ。
 そういうのじゃないんだけど、トラブルに巻き込まれるの苦手だから、
 ちょっと両方から距離置かせてもらおうと思ってさー。ごめんね』
『ん、そっかぁ。わかった。じゃあまたね』

そのメールに、私は『またね』とは返さなかった。

黒ノの中核メンバーの幾人かは携帯参加が中心とは言えパソコンも持っていたから、翠葉に様子を見に来れば私や『海白』が参加していることはすぐに分かるだろう。
『どっちからも距離を置く』という嘘は遅かれ早かれバレる。
そうなればもう女史と連絡を取ることもないだろうと確信していた。


けれど、本当にこれでよかったのか、まだ一抹の迷いはあった。
胸の中にわだかまる何かモヤモヤとしたものが、私にSNSの画面を開かせた。
昔から、そういう時は文章にして昇華しないと落ち着かない性質だった。

『21才の世間知らずの判断で、どれほどの答えが出せるのか。
 正直、迷っている。

 本当は自分も共犯なのに、口を拭って、汚れた手袋を取り換えて、
 この手は汚れてませんよ然とした、取り澄ました顔で人を不正とあげつらう。
 なんとまぁ、醜いこと。

 それでも、1週間前に出した自分の答えは、
 少なくともその時は、正しいと思ったから、そう行動したのであって。
 でも今それを振り返って、間違いだったんじゃないか、本当に良かったのか、悩む。

 例えばそれは、5年生になってから2年生の問題を振り返って、
 「あー、なんでこんな簡単な掛け算が出来なかったんだろうな〜」って思うような、
 “成長したから過去の誤りが見えて、バカだなと思う”類のものなのか。

 それとも、単純にあの時の判断は間違っていて、今それに気付いて
 どうにも落ち着かない気持ちになってしまっているだけなのだろうか。

 私自身、あの場所では楽しんでいた。
 それを提供してくれた友人であり仲間たちを売って、素知らぬ顔で
 「私は正しいことをしています」というのは悪ではないのか。
 
 だからと言って、裏切られたと知って苦しんでいる友を見ながら
 何もしないでいるのもまた、悪のような気がする。
 義を見てせざるは勇無きなり、という言葉もある。

 ただ問題は、この場合何が「義」なのか、ということだろう。

 苦しむ人を見かねて仲間を売るのは果たして義か。
 喜びを分かち合ってもらった恩を取って、口を噤んでいるべきだったか。

 どっちに転んでも義では無いような気がするから、
 やはり最初からどちらにも味方せずに中立を保つべきだったのか。


 私は、所詮21の小娘だ。
 だから、こうして悩んでいるのも大人から見れば「あー、若いなー」と思われることだろう。
 それでも、考えず、答えを出さない卑怯だけはしたくないので、
 後々振り返った時のためにも、今ここに思考の軌跡を記しておく。



 ……とりあえず頭の中出しきって書いたら何か結論出ないかなー、
 と期待して書いてみたんですが、そんなに甘くないですね……』


頭の中を整頓したいのと、懺悔の気持ちで、ひたすら綴った文章だった。
思えば、司馬に黒ノのことを喋ったあの日から、私は後ろめたさでいっぱいだったのだ。

K女史もS女史も、やっていることは確かに不正ではあった。
けれどそれは、人を楽しませたくて、誰かと楽しみたくて、やっていたこと。
そこは分かっていたから、そのカタチを一方的に批判して難詰する真似は、心苦しかった。

女史たちから見えないように設定した日記画面で、私はやっとそれを懺悔することができた。
けれど、懺悔してしまったらしてしまったで、ますます後戻りはできなくなった。

SNSでの文章は、白崎も司馬も見ている。
悩んで、それでも彼女たちに付いたことは彼女たちの知るところになった。
その結果、2人は私を懐に入れ、共に裁判で闘ってほしい、と言ってきた。
私は頷いた。

6月24日。
その日、私は2人の新しい妹分になった。
奈落が、また一歩私に近づいた日だった。

摂氏800度(12)

『こんばんはーKさん、なんか大変そうだね(汗) あの2人、なんて文句つけてきたの?』
『やっほーいわみん久しぶり! んーとね……
 1.管理人に申請せずにNPCを使用したのはマナー違反である。
 2.世界観の無断使用は、知的財産の不正使用であると同時に営業妨害である。
 3.パスワード制のページにしているのは、隠匿する意思があるとしか思えず、悪質である。』
『うっわぁ……』
『えー、なにそれ意味わかんない!
 知的財産とかいうけどさぁ、別にKちゃんたちは黒ノで利益上げてるわけでもないし。
 個人的趣味の範囲内なんだから責められる謂れなくない?』
『だよねぇ……』

もっとも過ぎて反論を思いつかない。
商品にしているもの(世界観やNPCの設定)を勝手に持ち出したのは営業妨害だ、というのは、私から見ても少し根拠が弱いように思えた。

彼女たちが黒ノで遊んでいるからといって、現行の翠葉の参加者たちに悪い印象を植え付けるわけではない。
ましてや、例えばメインの商品であるリライト小説を「面白くないから買わないほうがいいよ」などと言っているわけでもないのだ。
そもそも第1期からの参加者であれば面白いかどうかは既に知っているし、第2期の参加者には、彼女たちは会っていないのだから吹聴のしようもない。

また、他人の著作物を使って勝手に利益を上げているのであれば確かに問題だが、黒ノは別にそういうサイトではない。
リライト小説を販売しているわけでもなければキャラグッズを作っているわけでもない。
単に翠葉の卒業生キャラを持っている人たちが集まって遊ぶだけの場所なのだ。
これでは著作権法違反として訴えることも難しい。


こうして見る限り、現状で不利なのは白崎・司馬サイドであるように思われた。

舞台裏に参加しながら、スパイ行為なのは自分でも分かっていたから気分はあまり良くなかった。
それでも、白崎と司馬の味方になると決めた以上、役に立てることがあるなら、と会話を続けた。
そこで得た相手側の反論方法を元に、それを論破する方法を考えながらその情報を司馬に送った。

摂氏800度(11)

数日後、翠葉学園のトップページに告知が出された。

『当サイトの著作権を侵害する違反サイトが確認されました。
 現在、先方に連絡を取り、閉鎖してもらうように交渉中です。
 参加者の皆様には大変ご迷惑をおかけします。
 なお、詳細については後ほど正式にご報告させていただきます。』

司馬は私との約束を守った。
実際に確認し、黒ノの中では何もせずに戻ってきた。

正義感の強い彼は、こそこそと隠れて卑怯なことをする人をとても嫌う。
様子を見に行った時にちょうど女史たちがチャットで喋っていたようで、彼の性格からすればその場でチャットに乗り込んで女史たちに物申したかっただろう。

だが、それをせず私との約束を守ったことで、彼はさらに私を信頼させた。

ただ、サイトのHTMLソースやスクリーンクリーンショットは保存して来たと言っていた。
違反の「証拠」を手元に置いたのだ。

『告発されてから女史たちが慌ててサイトやチャットを消しかも知れないでしょ?
 けどこれで、彼女たちが証拠隠滅を図っても言い逃れができなくなるからね』
『わぁ、しっかりしてるね』
『ははは、俺、元法学部だよ? それも刑法専攻のさ。証拠の重要さとかしっかり分かってるからね』
『まー、頼もしいことで!』


携帯でそんな話をしながら、私はパソコンを立ち上げ黒ノを見に行っていた。
その頃の私は、翠葉への新規参入者と交流するために、黒ノにあまり顔を出してなかった。
元々黒ノに置いていた「卒業生」も、在校中からそう頻繁に使っていたキャラではなかったので、それくらいでちょうどよかったのだ。

ために、急に行ったら怪しまれるかな、と思わないでもなかった。
しかし、翠葉で正式に『問題』として取り上げられた以上、逆に「心配して顔を出しにきました」という姿勢の方が自然かな、という直感に従ってみた。

舞台裏チャットを見てみるとK女史とS女史はもちろんのこと、他に数人が既に集まっていた。
第1期参加者の、携帯からの参加が主だったため第2期からは参加できなくなっていたメンバーがほとんどだった。
彼女たちにとってみれば、翠葉で遊べなくなった代わりにこちらで楽しんでいたわけだ。
そこに起きた今回の騒動で、実際に黒ノが閉鎖となれば折角得た遊び場所をまた失うことになる。
そのため、白崎と司馬の判断には批判的だった。

『著作権って言うけどさぁ。
 元々二次創作もOKって言ってたんだから、こんなこと言い出すのおかしくない?』
『全てのキャラクターは、登録された時点で、他の参加者の二次創作に使用される可能性があることを了承するものとする、って自分たちで第1期から言ってたじゃんねー』
『それを今更さぁ……他のサイトへのキャラの流出も認めてたんだし、どうこう言うのはねー』

それは実際、彼女たちの言う通りだった。
翠葉ではキャラの個人プロフィールページを作るのと同様に、それらのキャラを使用した二次創作(外伝的な話や、「こんなことあったら面白いよね」という設定でスピンオフの話を作ることなど)も参加者の権利として認められていた。
特定のキャラクターのファンクラブなども存在していたし、その辺の自由度はかなり高かったのだ。

翠葉の世界観を使いながらもアレンジして別の物語を作っていた黒ノは、そのスピンオフサイトとして「許可された二次創作」の中に入るだろう、というのが彼女たちの見解だ。
そしてそのことに関しては、白崎・司馬サイドに与している私にさえ、黒ノ側の主張の方が正論だと思えたものだ。

また、「他のサイトへのキャラの流出」というのは、あるチャットで使っていたキャラを、他のサイトでも使うことを指すのだが、翠葉ではそれも認められていた。
お気に入りのキャラであれば、サイトが違っても使い続けたくなるということは往々にしてあるというのを白崎も司馬も知っているからだ。
そしてこの発言者は、黒ノで卒業生キャラを動かしていることを流出と見なしているわけだ。

それはそれであながち外れても居ない解釈なので、そこを突かれると翠葉側としては反論がしにくいのは間違いない。
この点は2人も理解しているだろうが、念のため忠告しておこう。
そう思いつつ、私は舞台裏チャットへの入室ボタンを押した。

かっこいい病院

柏の、名戸ヶ谷病院についての特集を見てたんですが。
すごく、かっこいい。
理事長の理念も、それを実践していく医師たちも。
もちろん、それを支える看護士さんたちも、凄まじい努力をなさっているのでしょう。

そこは、救急車を決して断らない病院。
開院から25年間、一度も急患を断ったことがないとか。
たらい回しで悲劇が多い昨今に、救急隊員から「最後の砦」と呼ばれている、とも。

「急患で自分の子供が玄関に来たら、ベッドがいっぱいですなんて言って断れますか?」
「自分や、自分の家族を預かる気持ちで常に患者さんをお預かりしています」

そういう理事長さんに、まだこういう医者も居るんだな、と思った。

ベッド不足に悩む病院が多い現状に、
自宅治療でも可能な患者は自宅に帰して、代わりに丁寧な往診をする。
そうして空いたベッドを一定数確保して、一日平均十数件という急患を受け入れる。
医師不足で悩む病院も多いですが、
法定最低常勤医数26人に対して35人を確保。
ベテラン医師と研修医を組ませ、研修医が受け持つとはいえ質のいい医療を提供。
そして、そうすることで研修医が受けられる実践も早くから上質な経験を得させる。
現場経験をさせてくれる病院だ、ということで希望者を確保できる。
ついでに、医師に住居費負担などを行って病院から5分圏内の住宅を提供。

なにより、この理事長の信念に惹かれて、応募する人が多いのだとか。

医者の本来あるべき姿って、こうなんだと、分かってる人はきっと多い。
だけど、やむをえない事情に負けて理想の姿から離れていく人も、きっと多い。

取材で張り付かれていた研修医さんは、夜勤の上にさらに急患が重なり、
結局30時間勤務になっていた。
それでも、若いから乗り切れるという以上に、
現場の緊張感が充実感になって彼を動かしているといっていた。


自宅医療専門チームの結成も考えているとのことだし、
経営とかも大変だろうと思う。
だけど、これからも頑張って欲しいと思った。

それと、贅沢を言うなら、
こういった病院が「最後の砦」ではなく、もっと増えて欲しいと思う。

摂氏800度(10)

『で、私はどうすればいいかな?』

協力するとは言っ(てしまっ)たが、さて何をすればいいのやら。
さしあたって司馬が求めているものが分からなかった私は単刀直入にそう訊ねた。
返ってきたメールに私は少し考えて答えた。

『そうだね、違反の様子を直接見られれば助かる。アドレス貰えない?』
『IDとパス制のページだからなぁ……』
『出来れば、IDごと貸してほしい』

私は、その要求には少し考えてから答えた。

『んー、ホントに見るだけで済ませるならいいよ。
 何かアクションとるなら、私のIDのログイン記録残っちゃうから貸したくない。
 密告したの私だって分かったら、この人間関係の中で私の立場微妙になる』


実に自分勝手な理由であることは分かっていた。
だが私はまだ翠葉で遊びたかったのだ。

黒ノに参加して楽しみながら、翠葉でも遊んでいる人は結構いた。
彼等の中にはもう一つの遊び場として黒ノを歓迎している人も居る。
しかし私が今からやろうとしていることは黒ノを潰すことであり、それは彼等の不利益に繋がるわけだ。


ルール違反を告発すること自体は人として間違いではない。
が、私とて黒ノで遊んでいたわけだから、『存続派』からの「裏切り者め」という批難は避けられまい。
目に見えてギスギスする空気に耐えられない私は、それが怖かった。

そして、どういう形で解決するにせよ、翠葉に顔を出しづらくなるのは必定だ。
解決するまではもちろん、下手すれば解決してからも。
それは、嫌だった。

私はまだ、このコミュニティを失いたくなかったのだ。


私の内心を察したのかどうかは知らないが、その条件でいい、と司馬が言って話が纏まった。
私はページのアドレスとIDとパスワードを司馬のパソコンのメールに送信した。


送信ボタンを押す時に妙な寒気がした。
あれは、とうとう白崎サイドに明確についてしまった私に、神様が零したため息だったのかもしれない。
プロフィール

Author:天海紅葉
(あまみ・くれは)
歴史研究好きの物書き見習い。
占い師もやっている。
最近料理の楽しさに目覚めつつある。
愛してやまないものはお茶と甘味とカナダとイギリス。
シェイクスピアの『リア王』を語らせるとすごく長い。

最新記事
いらっしゃいませ
I thank you for visit !
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード